校外学習中に災害が起き被災した場合、児童・生徒をどのように守るか。学校での被災とは違い、見知らぬ土地にいた場合、どのように対応するべきでしょうか。
今回は修学旅行を例に見ていきましょう。
 

目次

 
1修学旅行中の災害を想定した事前準備
2災害に備えて現地(修学旅行先)で確認するべきこと
3もしも修学旅行中に災害が発生したら
4被災後の児童・生徒に対するこころのケア
5まとめ

 
 

修学旅行中の災害を想定した事前準備


地震や台風などの自然災害の脅威を目の当たりにすることが多い昨今、防災準備をしている学校は多いと思います。
では、修学旅行中の被災について想定できているでしょうか。
学校の近くであれば土地勘もあり、学校に戻ることで対応も可能ですが、修学旅行など長期の校外学習のほとんどは、土地勘がなく避難場所がわからない、持ち物が不足する、すぐに帰宅できない、少人数の教員に対して多くの児童・生徒を抱えているなどの問題点があり、“災害弱者”となります。
全国修学旅行研究協会は、普段からの防災教育に加え、修学旅行における災害の備えの必要性を唱えています。
では、事前に必要な準備とは一体何でしょうか。以下にいくつかご紹介します。
 

(1)情報収集

“災害弱者”となる主な原因は「情報量の差」です。
見知らぬ土地で被災した場合、どこが安全な場所なのか、どういった二次災害が発生するのかなど、普段その土地に暮らしていないとわかりません。その土地ではどのような災害が発生する可能性があるのか、避難場所はどこなのかなどを事前に確認しておくことで、情報量の差を最低限に縮めることができます。
事前に知っておきたいポイントを2つ紹介します。
 
・どんな災害が発生しやすいか
→地形や過去の災害記録を確認する。
・避難場所はどこにあるのか
→行く場所の避難場所や海辺の土地であれば高台の場所とそこまでの経路を把握しておく。またその土地の地図を準備しておく。

 

(2)災害を想定した持ち物を用意する

ただでさえ児童・生徒たちの安全のために、先生方の持ち物が多い修学旅行。災害を想定して多くの持ち物を追加で持っていくのは現実的ではありません。ここでは最低限あると便利なアイテムを紹介します。
これに加え、目的地(海や山、市街地など場所)や季節によって必要なものを追加しましょう。
 

 ・現地の地図:被災しスマホのバッテリーが貴重になることを考え紙の地図がベスト。
 ・ホイッスル:自分の居場所を伝えるのに加え、児童・生徒たちの引率にも使えます。
 ・懐中電灯、ヘッドライト
 ・携帯ラジオ
 ・モバイルバッテリー
 ・テレホンカード:通信障害などで電話が通じない場合でも公衆電話は使用できる可能性があります。
 ・現金(小銭):ATMが利用できない場合に現金があると安心です。小銭があれば公衆電話も利用できます。

 
また、事前に学校や保護者との連絡手段を電話以外にも用意しておきましょう。災害時、電話は回線が輻輳し繋がりにくくなります。インターネットが使用できる場合は、連絡網システムを活用することで学校との連絡をとったり、保護者へ無事を伝えることができます。

 

(3)対応ルートや役割確認

修学旅行中に被災した場合やそれ以前に大雨特別警報などの気象情報が発令された場合、どのような対応をとるか、どのような手段で学校や保護者と連絡をとるかを事前に決めておきましょう。
例えば、台風などの気象情報が発令された場合、「①誰が②誰に③どのように伝え④誰と協議をして最終決定を行うか」です。
(例)
「①学年主任が②校長先生に③電話(口頭)で伝え④職員(と保護者)と協議をして最終決定を行う」
これは修学旅行中も旅行直前でも決定基準として利用できます。
また、急な災害の発生を想定して、現地と学校にいる職員の役割をそれぞれ決めておきます。更に連絡手段は、以下のように複数用意しておくのがベストです。
 

第一手段:電話
↓電話が繋がらない
第二手段:連絡網システム
↓インターネットが繋がらない
第三手段:公衆無線LANサービス「00000JAPAN」*

 
回線が異なるものを用意しておけば、連絡手段の可能性が広がります。
また、電話やネット回線が利用できなくても、携帯ラジオを持っていれば、今起きていることを把握することはできます。
各自治体の教育委員会や学校で整備されている学校防災マニュアルには、校外で被災した場合の対応は記載されているでしょうか。登下校中や校外学習中の対応も記載されているのが理想的です。もし記載していない、情報が少ない場合は検討してみてください。学校防災マニュアルについては、別コラムを掲載しているので是非ご覧ください!
『学校防災マニュアルの目的とは?作成時のポイントや注意点も解説!』(株式会社パスカル)
 
*公衆無線LANサービス「00000JAPAN」:大規模災害時に無料開放される公衆無線LANサービス。「一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会」が推進する活動で、会員である通信事業者や通信機器メーカー、地方公共団体等と協力して提供されているサービスです。
インターネットに接続出来ない場合も、このサービスを利用すれば連絡網システムなどが利用できます。
詳しい使い方や提供条件、注意点は以下サイトにてご確認ください。
『災害用統一SSID 00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)について』(一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会)
 
 

災害に備えて現地(修学旅行先)で確認するべきこと


修学旅行当日はどんなことに気を付ければ良いでしょうか。
 

(1)非常口の確認


利用施設での非常口の場所とそこまでの経路を確認しましょう。
各施設、係員の指示に従うことが前提ですが、非常口の場所を確認しておくことは重要です。非常口から出た先がどこかも確認しておきましょう。
 

(2)防災(非常)設備の確認


防災(非常)設備には、以下のようなものがあります。(日本メックス株式会社HP参考)
 

・消火設備:火の勢いを抑えて、延焼を防止するために使用する設備
―消火器
―屋内用消火栓設備
―屋外消火栓設備
―スプリンクラー設備 等
火災が発生した際、消防隊が駆けつける前の火が小さいうちに、備え付けられた消火設備を使うことで被害を最小限に抑えられる可能性があります。

 
・警報設備:火災やガス漏れなどの発生を検知し、警報ベルなどを鳴らして建物内の人に報知するための設備
―自動火災報知設備
―ガス漏れ火災警報設備
―非常警報器具

 
・避難設備:災害発生時、建物から安全かつ迅速に避難できるよう設けられた設備
―非難はしご
―救助袋 等
また、避難するための誘導設備である誘導灯及び誘導標識や非常用照明も含まれます。

 
その他にも消防活動上必要な消防用水や非常コンセント設備、自家発電設備なども防災(非常)設備です。
もちろん、このすべてを把握する必要はありませんが、消火器や非常警報器具の場所は確認しておきましょう。

 

(3)周辺の避難場所とそこまでの経路


宿泊施設から避難場所までの経路を確認しておきましょう。修学旅行中の場合は避難人数も多いため、避難所の規模もチェックしておくと良いでしょう。

 

(4)AEDの設置場所路


AED(自動体外式除細動器)とは、心停止状態の際に胸骨圧迫に加え、心臓に電気ショックを与え除細動を行い、心肺蘇生を行うための医療機器です。以前は医師など限られた人しか使用できませんでしたが、2004年7月から一般の人でも使用できるようになりました。自動車教習所でAEDの使用方法を学んだ方も多いと思います。災害時に必要になることもあります。AEDは音声や光で使用方法をガイドしてくれますが、事前に講習などを受けておくのが良いでしょう。修学旅行先ではAEDがどこにあるのかを確認します。

 

(5)気象情報の確認


長期にわたる校外学習の場合は、翌日の天気予報や気象情報を確認します。台風の上陸予想がある場合は、早めの判断が重要です。【1】修学旅行中の災害を想定した事前準備の(3)に記載したように、気象警報が出た場合の対応ルートを事前に決めておくことで、当日スムーズに進めることができます。

 
 

もしも修学旅行中に災害が発生したら


災害が発生した場合、児童・生徒・職員の安全確保が第一です。地震、津波、火災など、発生した災害により、避難方法や避難場所は異なります。そのため、それぞれの災害を想定した避難訓練を日頃から実施することが重要です。災害時はパニックを起こす児童・生徒もいます。日頃の防災訓練で、地震が発生したらまずは机の下に潜り安全を確保する、などの行動を身に着けておくと、比較的落ち着いた行動ができるのではないでしょうか。
ただし日頃から避難訓練をしていたとしても、訓練通りにはいかないこともあります。特に修学旅行中など、普段の訓練と違い校外にいる場合は、どこに避難するべきかの判断が非常に困難になります。児童・生徒に落ち着いて行動してもらうためにも、職員が落ち着いて声かけを行いながら避難誘導を行います。
地震の場合、「落ちてこない・倒れてこない・移動してこない」安全な場所を素早く判断し、適切に指示をすることが求められます。また、それと共に児童・生徒等の安否確認、避難行動の補助、応急手当等も状況に応じて行います。
また安全を確保したところで、学校にいる職員への連絡を行いその後の方針を決めるためにも、あらかじめ校外で被災した際の行動の流れと連絡手段を決めておく必要があります。(文部科学省「学校防災マニュアル作成の手引き」引用)

 
 

被災後の児童・生徒に対するこころのケア



子どもが災害から受けるこころの衝撃は大人より大きいと言われています。災害の経験による反応は年齢により様々ですが、わずかな物音で起きる、年齢のわりに大人びた態度をとる、わがままを言う、反抗的な態度をとる、集中力が低下する、感情鈍麻、集団への不適応などがあります。また、夜泣き、指しゃぶり、甘える行動などの退行現象(赤ちゃん返り)が見られることがあります。その他、喘息やアレルギー症状、頭痛、吐き気、食行動の異常などもあります。これらの反応は、恐怖感や不安な状況がもたらす心身の反応であり、異常なことではありません。家族が一緒に居る時間を増やし、話を聞くことが大切です。それに加え、学校でも注意してサポートを行う必要があります。
多くの場合、生活の再建とともにこころの健康も回復していきますが、なかには精神的な影響が長く続いたり、精神疾患の診断がつくこともあります。これらの診断として、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が挙げられます。
またこういった災害後の心理的負担はこどもに限ったことではありません。災害を経験した職員もストレスを抱えてしまう場合があります。適切な医療サービスや周囲の人からのサポートなど、こころのケアに配慮することが重要です。

 
 

まとめ


災害は場所、時間を選びません。いつ起きてもおかしくない自然災害に対して私たちができることは、最悪を想定した事前の備えです。
2018年に発生した西日本豪雨では中国地方を中心に甚大な被害をもたらしました。岡山県総社市下原地区もこの災害の被災地の一つです。しかしこの地域では要支援者29人を含む住民全員が無事避難を行うことができました。これは、同市の住民が「自主防災組織」を立ち上げ、車いすでの避難や夜間訓練など実践的な避難訓練を住民全体で毎年行うなど、災害を想定した備えができていたためです。
学校でも同様、様々な場面での災害を想定し準備を行うことで、未来の安全に繋がるのではないでしょうか。

 
 
<参考文献>
「防災専門家が修学旅行における災害への備え・防災教育の必要性を強調 第35回全国修学旅行研究大会」(観光経済新聞)
『災害用統一SSID 00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)について』(一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会)
コラム「防災設備とは?建物の規模や目的に合わせた設備の種類と重要性」(日本メックス株式会社)
「ED(自動体外式除細動器)とは」(オムロン株式会社)
「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」(文部科学省)
e-ヘルスネット「災害とこころの健康」(厚生労働省)
災害列島 命を守る情報サイト「避難訓練が命を救った~岡山県総社市~」(NHK)

 
 

記事監修

オクレンジャー連絡網

株式会社パスカルは法人向け安否確認システム「オクレンジャー」をご提供し、災害時の正確な安否確認と迅速な緊急連絡を実現しています。
システム開発における30年以上の実績と知見をもとに、使いやすく質の高いサービス提供を続け、140万人以上のお客様にご利用いただいております。
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